クレーンに立てこもる。―使用者側の叫び

投稿者 | 2013-05-04 6:17 | No comments | 読む

「お兄さん、その顔どうしたの?」
私が聞いた。お兄さんは自分の顔を手で拭いてその手を見つめた。
「労働者と警官たちが押し合う際に転んだんだ。大変だったんだよ」
「ねね。お兄さん、あそこクレーンの上の人は?」
「お父さんだよ。昨日の夜、クレーンに上がった。警官たちはそこまでは登れないから安心だ」『波が海が業ならば』  ( 174頁)

“오빤 얼굴이 왜 그래? 다친 거야?”

내가 물었다. 오빠는 뺨을 한 번 만지고 그 손바닥을 들여다봤다.

“사람들과 전경들이 서로 밀치고 싸울 때 넘어졌어. 밤새도록 난리였어.”

“그런데 오빠, 저기 크레인 위에 저 사람……”

“아빠야. 어젯밤에 저기로 올라갔어. 다행히도 경찰들이 저기까진 못 올라가”

「カミラ」=ジョン・ジェヒのお母さんジョン・ジウンとジウンのお兄さんジョン・ジェスンの会話部分である。

「ジンナム造船所」で起こった労働者と会社側の闘争に無理やりの鎮圧に取り掛かった警官に対抗し、追い込まれたジウンのお父さんはクレーンの上まで上がって、最後は死を持って自分たちの主張を代弁する。

この場面は2009年の「龍山惨事」と2010年の「韓進重工事件」にオーバーラップする。

「龍山事件」とはソウルの龍山地区での再開発のために立退きを要求されていた人々が、それに抗して篭城していたのに対して、警察が機動隊を投入し、そのさなかで火災となって機動隊員1名を含む5人が亡くなり、23人が怪我をした大事件だった。民衆の力で民主主義を勝ち取った国で警察の鎮圧方法はまるで軍部の時代と変わらない残酷さがあった。2012年にはこれを描いたドキュメンタリ映画『二つの門』が評判にもなったぐらい。

また「韓進重工事件」とは2010年に韓国の造船業のトップである韓進造船所で起きた大量解雇に反対労働者たちとの大々的な労使紛争のことを言う。この闘争のシンボルとなった「タワークレーン」に民主労総釜山支部指導委員のキム・ジンスク氏がクレーンに登り、籠城を始めた。なんと308日間も立てこもっていた。また、このクレーンは、2003年の韓進重工業の労働者と会社側の闘争当時、労組支部長であったキム・ジェイク氏が129日間籠城し、首つり自殺したクレーンである。

クレーンの上に立てこもって自己主張をするのはいまの韓国ではそれほど珍しくはない。ネットでクレーンを打ち込むだけで韓国の各地域で行われているクレーン篭城のニュースがでてくる。いつからどうしてクレーンでのデモなのか大変気になって関連記事をさがしてみるが、これっといった答えはみつからない。1999年あたりからタワークレーンで篭城の記事がでてくる。

金・ヨンスのこの作品の細くて美しい文体ではクレーンに立てこもって自己主張をする民衆の怒った声や不安そしてやりきれない気持ちがあまり伝わらない。ひとつの風景のように見えるだけである。

【写真提供=DADA】

 

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